大手が低迷、今がチャンス
「売れる商品がわからなくなった」
この言葉は、日本の流通業界をリードしてきた2兆円企業の会長が、ある勉強会で私たちに発した言葉です。
1998年2月のことでした。
私は思わず、
——そうかな?
と心のなかでつぶやきました。
またその会長は、
「今の低迷は、組織の官僚化が原因だ」
ともいいました。
たしかに、年商2兆円の売上高を誇る一部上場企業で、数十万人の社員を抱えていれば、そう考えるのもいたし方ないことかもしれません。
しかしその反面、
——今がチャンスだ!
と思ったのです。組織が小さいほうが、あらゆる変化に俊敏に対応できます。
私は、この千載一遇のチャンスを逃してはならないと心のなかで叫びました。
実は、売れる商品というのは、その見分け方がとても簡単なのです。
「早くそれを教えて!」という声が聞こえてきそうですが、それを紹介するよりも、まずは今までの考え方を変えることのほうが先決です。
ビジネスに携わる人々の悪い習慣
日本のチェーンストアの育ての親である渥美俊一先生は、日本のビジネスのよき習慣として、次の7つを挙げました。
- 売ること、ついで儲ける習慣
- 実態を数字でつかむ習慣
- 確実に純益高を確保する習慣
- 自己満足と自己限界を克服する習慣
- 手順・手続きを大事にする習慣
- 学び方を変える習慣
- つねに未来を見つめる習慣
では、反対に悪しき視点とそれをもたらす習慣とは何でしょうか。
それを私なりに考えてみました。
【なぜ、顧客が来ないのか】
- 売れる商品がわからない
- 見当はずれの販促方法
- 客単価と客数を同時にアップさせるノウハウがない
- 大手企業が強いという思い込みや錯覚
- 格好だけの店舗改装・リニューアル
- 商店街活性化のための間違った努力
- 高額なシステムを活用できない
以上の7つを言い換えると、次のようになります。
- 売れる商品がわからない\
→売れる商品がわかるしくみ(=習慣)ができていない - 見当はずれの販促方法\
→販売を科学的に行なうしくみ(=習慣)がない - 客単価と客数を同時にアップさせるノウハウがない\
→客数をアップさせるノウハウだけがあり、客単価も同時にアップさせるという考え方がない - 大手企業が強いという思い込みや錯覚\
→小さいことの利点を活かそうとする考え方がない - 格好だけの店舗改装・リニューアル\
→店舗改装を科学的に行なうしくみ(=習慣)がない - 商店街活性化のための間違った努力\
→商店街をよくするための方向性(=習慣)がない - 高額なシステムを活用できない\
→人間の行動習慣のほうが重要なことに気づいていない
以下、7つの点について、どのように改善すればいいかという点を提案します。
1. 売れる商品がわからない → 簡単にわかる方法がある
「ビジネスに携わる人々が、売れる商品をわかっていない」
まさかと思われるかもしれませんが、ビジネスに携わる人々の実態を表した言葉です。
そうでなければ、「自分が売りたいものはわかる。しかし、売れるものはわからない」と言い換えてもいいでしょう。
この実態を、私たちの食品業界を例に考えてみます。
ここで質問です。
現在、食品業界では、1万品(単品)もの商品が売られていますが、顧客100人がお店に来店して10個以上売れる商品(その商品の支持率が10%以上ということ)はいくつあると思いますか?
「1万品のうち、500品くらい」
「200品くらい」
「100品くらい」
どれも間違いです。
正解は、「10品(未満)」です。
そのうちスーパーマーケットでは、100人来店して10個以上売れる商品は5〜10品で、実際には10品を超えるお店はほとんどないに等しいのが現実です。
次に、顧客100人が来店して、1個以上売れる商品(その商品の支持率が1%ということ)はいくつあると思いますか?
答えは、1万品のうち「200品」前後です。
つまり、顧客100人が来店して10個以上売れる商品が10品、1個以上売れる商品が200品前後。食品業界では、売れる商品は実に200個くらいしかないということです。
このデータは、PI研究所の鈴木聖一先生が1000店近いスーパーマーケットのPOS(販売時点情報管理)データを分析して発見したものです。
実はこれ、エブリデイ・マーケット(毎日の食生活)業界では偉大な発見なのです。
エブリデイ・マーケット業界では、支持率10%以上の商品は10品もなく、1%以上の商品は200品前後しかない。
商品に対する顧客の支持率を知らなければ、あなたが売れている商品を知らないのと同じことだといえます。
売上をアップさせるには、この200品前後の商品強化、なかんずく、来店客の10%以上に売れる商品をいくつ持てるかでお店の存亡が決まります。
「ロータス(蓮)・メソッド」では、顧客の支持率が10%以上の商品を店頭前面に陳列することが基本です。
今どきのマーケティングでいえば、
フロントエンド商品は、見込み客の10%以上に売れる商品
バックエンド商品は、見込み客の1%以上に売れる商品
ということになります。この数値は、業種・業態で各々の基準値を設けてください。
たとえば、ネット販売では、アクセス数を見込み客として、来店数(=アクセス数)からその商品が何個売れたのか、購入比率を出すという作業をしてみます。
2. 見当はずれの販促方法 → 客単価と客数を同時にアップさせる
よくお店の前に、「大売出し」の紅白の旗を見受けますよね。
しかし本来、小売業のよさは、大売ではなく小売なので、「小売出し」の旗のほうがよいはずです(ただし、私はお店の前に旗を立てることをおすすめしません)。
私たちエブリデイ・マーケット業界の例でいうと、スーパーマーケットでは、ふつう買い物カゴのなかに一人当たり10品前後が入ります。金額にすれば、2000円前後になります。
野菜ビジネスでは、買い物カゴのなかに5点前後の野菜や果物が入ります。金額にして平均600円くらいになります。
この客単価(顧客一人当たりの買上げ金額)に来店した客数(レジ通過客数)を掛けたものが「売上」です。
売上=客単価×客数(レジ通過客数)
この売上からコストを引いたものが営業利益になります。
商売をやっている人なら基本中の基本で、ビジネスはとてもシンプルにできています。
つまり、「小さな客単価」がビジネスの土台なのです。
小さな金額の積み重ねですから、大売出しの旗は似合いませんね。
3. 客単価と客数を同時にアップさせるノウハウがない → 客数アップのノウハウに、客単価アップをプラスする
チラシ、ポイントカード、朝市、均一セール、はてはDMから福引まで、客数アップにはさまざまなノウハウがあり、この手のビジネス書があふれています。
しかし、あくまでも集客のノウハウばかりで、現在の日本には「客単価と客数を同時にアップさせるノウハウ」はひとつもありません。
この本を書くにあたって、私は欧米・日本のビジネス書を200冊以上購入して読みましたが、予想どおり1冊もありませんでした。
客単価アップは、単に売価を上げて達成するものではありません。
単純に売価を上げて売上をアップさせれば、客数はグンと減ってしまうのは目に見えています。
第3、4章でお伝えする「ロータス・メソッド」は、「売価を上げずに客単価を上げ、しかも同時に客数をアップさせる」ものです。
この利益を生み出すメソッドは、世界に誇れるものだと私は信じています。
4. 大手企業が強いという思い込みや錯覚 → 大型店は経費がかかりすぎ、本業で利益が出せない
日本のチェーンストアといわれる企業が、各地に出店攻勢をかけています。
あなたはそれを見て、「さすが大手は強いな」とぼやいていませんか?
実は、経営のしくみのうえでは、中小企業の私たちのほうが断然有利なのです。
小さければ小さいほど強いんです。
このことは、私が学生時代を含めて、二十数年欧米のチェーンストアを自分なりに研究(今でも謙虚に学んでいます)してきた結論です。
というのは、大手・大型店のほとんどは、アメリカ型のチェーンストアをモデルに展開し、戦後、拡大発展してきました。
しかし、大手・大型店は、経営のしくみ、構造のうえで大きな難題を抱えているのです。なぜならば、利益が出にくいというしくみを作り上げてしまったからなのです。
土地や不動産に根強い価値があり、右肩上がりの時代はまだ大丈夫でした。
しかし、ついにその価値が下落してしまった現在、アメリカ型のチェーンストアのモデルにも無理が生じてきました。
アメリカ型のチェーンストアをモデルにした場合、気をつけなくていけないのは、日米における収益構造の違いです。
日本とアメリカでは、以下の違いがあります。
日本とアメリカでは経費のしくみが違う
〜日本に合った戦略を立てる必要がある!〜
経費率10%台、粗利益率20%以内に設定
- 土地代
- 坪当たり10〜数十倍
- 人件費
- 2.5倍以上
- 建設費・エネルギーコスト
- 2倍以上
図の内容をテキストで読む
- タイトル:日本とアメリカでは経費のしくみが違う
- サブタイトル:〜日本に合った戦略を立てる必要がある!〜
- アメリカ:経費率10%台、粗利益率20%以内に設定(書類の山のイラスト)
- 日本(ビル・人物・建設機械のイラスト):
- 土地代:坪当たり10〜数十倍
- 人件費:2.5倍以上
- 建設費・エネルギーコスト:2倍以上
- 人件費で2.5倍以上日本が高い
- 店舗費用に当たる土地代は坪当たり10〜数十倍
- 建設費・エネルギーコストは2倍以上
この点は、『イトーヨーカ堂業革委員会』(講談社刊)にも詳しく書かれています。
実に経費は坪当たり3倍以上も、日本のほうがアメリカより高くつくのです。
ですから、欧米型の経費率を10%台に抑え、粗利益率を20%以内に抑える経営システムでは、利益は出てこないのです。日本のビジネス環境では、無理が生じます。
現に、欧米型のディスカウントストア(非食品占有面積3000坪クラス)は、日本ではうまくいっていません。
努力が足りないのではなく、しくみそのものに問題があるので、利益(粗利益−経費)が出ないのです。
利益が出ないのですから、テナントを入れたりデベロッパー業をしてみたり、今でこそ少なくなりましたが、不動産業をするなど多角化経営を敷かざるを得ない宿命がありました。
戦後の小売業の大チェーンは、商品販売で大きくなったのではなく、不動産業(出店すれば近辺の土地代が上がり、その土地を切り売りして儲けます)や支払いサイトを延ばし、回転差資金(売上金を素速く回収し、支払いを延ばすことによる現金活用法)を利用して大きくなりました。
でも、大きくなったから強くなったということではありません。
経費が小企業より人一倍かかる大手・大型店は、強さでいえば、利益の出しにくい弱い立場なのです。
ですから、大型店を見て「スピリット」や「メンタル」な部分でひけ目を感じることなんてないのです。
5. 格好だけの店舗改装・リニューアル → 科学的な店舗改装は費用対効果を考える
お店のリニューアルオープン・店舗改装が盛んです。
しかし、改装した店の中身はほとんど変えないで、什器やゴンドラ、ユニフォーム、レイアウトを多少変えたくらいではお店は蘇りません。
「ロータス・メソッド」の基本であるフロントエンド商品の強化と、バックエンド商品の強化がないお店は、99.9%失敗します。
私は、外面的なリニューアルオープンより、「ロータス・メソッド」のソフトを取り入れたフレッシュオープンをこころがけています。
物を売る基本は、商品を戸板に並べることから始まりました。
その戸板に商品を載せて、フロントエンド商品とバックエンド商品の顧客支持率を上げるしか、売上をアップする方法はありません。
最初に自己イメージを変え、「ロータス・メソッド」のソフトを組み込み、そのうえでハードを変更すると店舗改装は成功します。これが本当の意味でのリニューアルです。
だいたい、リニューアルというのは、顧客にはわかりにくい言葉です。
中途半端な店舗改装は、逆に「売れないから改装するのかな?」と顧客に不安を与えるのがオチです。
6. 商店街活性化のための間違った努力 → ハードよりソフトパワーを活用する
現在の商店街の活性化は、どこへ行ってもスタンプやポイントカードでの販促、福引などが流行っています。
しかし、そもそも販売促進とは、アーケードの改装や旅行・スポーツ観戦のご招待、娯楽施設を作ることではありません。
ずばり、商店街の活性化は、「フロントエンド商品の強化」以外に突破口はないのです。
先ほど物を売る基本は商品を並べる戸板にあると述べましたが、その戸板は、横180cm、縦90cmと決まっています。
戸板の横幅180cmは、顧客が視線に入れることのできる範囲です。
そして縦幅の90cmとは、並べられた商品に顧客の手が届く範囲です。
この戸板1枚、180cm×90cmに、あなたのお店で顧客から支持率の高い商品を並べてほしいのです。
店頭の戸板(フロントエンド商品)に1〜3品以内で、あなた自身の考えるベストな商品や、ベターな商品を並べてください。
あなたが売りたい商品でなく、あくまで顧客の側から見て一番支持される商品ですよ。
私のエブリデイ・マーケットのビジネスですと、たとえば顧客が100人来店して10個以上売れる商品ということになるので、これはデータからすぐにわかります。
ちなみに、スーパーマーケットの世界では、顧客一人当たりの買上げ点数1位の商品は「牛乳」です。
野菜ビジネスの世界では、客単価1位は「トマト」になります。
あなたがビジネスを手がける際、お客さまから一番声がかかる商品は何ですか?
まずはひとつでいいので、商品の支持率を出してみてください。
計算方法は、電卓や携帯電話の電卓機能を使って、または暗算でも出せます。
ある商品の売れた数÷来店客数×100(%)
この%が一番大きいものが、一番支持率の高い商品です。
7. 高額なシステムを活用できない → ビジネスの行動習慣が即システムになる
とくに、小売業の世界では、高額なシステムほど活用できていません。
数百万〜数千万円もするPOSシステムも、うまく活用できていません。
店舗のデータを管理する、ストアコントローラーにしてもしかりです。
というのは、顧客と商品の動きは、どんなにシステムに資金を投じようと、その動きをとらえることはできないからです。
投資した費用の10分の1も効果が得られていないのが現状で、ほとんどはお金をドブに捨てているようなものです。
大手コンピュータメーカーも小売業の実態をなかなかつかみ切れていないため、現場で使えないデータが氾濫しています。
そんな泥沼のような状況でしたが、1995年に大変化が起こりました。
「ウィンドウズ95」の登場で、店舗の後方(バックヤード)にパソコンが導入されたことです。
パソコンの登場は日本の商業史上、画期的なことなんです。
「エクセル」というソフトの登場によって、今まで数千万から数億円かかったシステムが気軽に買える値段になりました。
計数管理、POP、チラシ、社内外文書などの作成が手軽にできるようになり、今までの商業環境は一気に変わっていきました。
パソコンを活用しない手はありません。
現在、このパソコンは、お店のバックヤードには欠かせないツールとなりましたが、どう活かしているかが問題です。あなたももう一度考えてみる必要がありそうです。
「ロータス・メソッド」では、前に述べた顧客支持率の高い商品から低い商品までの数値を出し、顧客にとって買いやすいレイアウトや価格設定を、「エクセル」に落とし込むことによってデータを有効活用していきます。
